〜You are the one to me〜



 この鎌を持っていると、わかる。決して自分には無いもの、ではない・・・愛するということの意味がわかる。
 雨の打ち付ける午後の森。右から・・・左から・・・流れる鋭利な曲線が、金色の体毛を次から次へと切り裂いていった。
 そしてゲートに緑が灯る。原生生物の血の跡を避けもせず、次の区画へ歩む。
 ・・・体が、ゾクッと震えた。思わず鎌を握る手に力が入る。
 次に飛びかかってきたのは、狼。その開かれた口を認識するときには、すでに己の鎌がそこに入りこみ、体までを引き裂いていた。刃を返しながら構えに戻ると、確かに水分を含んだものが飛び散った。
『嫌だ・・・』
 後方に振るえば、蚊の群れが次々と地面に叩き付けられていく。
『守る・・・のかっ!』
何故か怒気が頭に満ちて、既に放出する蚊を失ったその巣に、まるで斧を振り下ろすかのように鎌を何度も突き刺す。
「!!!!」
それが体内物質を放出し、崩壊を表しても、自分は何も感じない。それが完全に片と化すまで、鎌を叩き付けていた。
 体からスウッと何かが抜けてゆく。誰かの手の温もりのような、そんな何かが体を巡って、抜けていった。先刻の体の震えと同じような感触だったことが、自分の感じ方の変化を教えていた。だがそんなことはどうでも良かった。この感触に良し悪しを問う理性は既に無く、ただ身を委ねたい、と本能が語っていたからだ。
 そんな彼の目の前に表れたのは青い熊だった。眼球に映るそれは、腕を振るう。ただ何もせず、それを受けた。体が宙を舞い、地面に落ちたその手に鎌は無かった。
 しかし自分にはその実感も思考もない。立ち上がって、熊を蹴る。片足で、そして飛び上がって浴びせ蹴り。最後に今まで鎌を握っていた拳を大きく振りかぶる。
『・・・・・』
飛んだのは自分の体だった。再び落ちたその手元には、鎌があった。右手がそれを求めた。
「!!!!!!!!」
傷つけた。青い熊に、刻んでいく?この鎌を持った気持ちを・・・それが傷つけるということ!
『構わない・・・よ。』
そして来るべき瞬間が来る。頭に「すべて」が交錯する。あの顔、あの場所、あの声、あの・・・あの・・・
ズサァァッ!
 体の力の大半が、鎌に注がれた。
 力の全く入らなくなった、空っぽのような体に、心地よい重みが駆け抜ける。
 ピシャン。
 雨の降り続く大地に、とうとう膝をついた。
 それでも、熊の屍の上の鎌は、新たな紫の光で、誘うのだった。





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