5月 17, 2010
tronmc

映画:第9地区(ネタバレ有)

たまにはまともな映画も見るんです!気が向けば、ですけど。。
ネタバレ付きの感想は続き以降にしますが、その前にざっくりと。

え~と、かなりおもしろかったです!
ただ、ちょっと暴力、残虐系の刺激は強めに思います。映倫指定はPG-12ですが…う~ん。
それと、気持ちいいお話ではありません。SFのおもしろさや、ミリタリーアクションといった見せ場はありますが、重苦しい状況で展開されるだけに、それでハイになれる感じでもないです。人にもよると思いますが。
実際、見た後はその日中けっこう気分が重かったです。

でもそんなところにおもしろさを感じました。切り口も良いですし。
笑うところもあるのかもしれないですが、私は全くもってこの映画、笑えませんでした。
ですからほとんど全面的にシリアスなものとして捉えているワケですが、それでも名作だと思います。

バイオレンスや、倫理や道徳の重苦しさに耐えられる覚悟があれば、ぜひオススメの一作です。
レビューが遅くなってしまい、もう上映が終わっているところも多いタイミングではありますが、DVD等出た際に気にして頂ければ(^_^;)

では、ネタバレ付き感想は続きから…。

●「バカ」と言い切れれば幸せ

まず、この映画に対して語られるものについては、南アフリカ共和国(のヨハネスブルグ)が舞台ということ等々あり、「アパルトヘイト」に触れるものが多いようですが、私はそれに触れて語る舌は持っておりませんので、その辺はおいとかせてもらいます…
というか、実情に詳しい人はともかく、学校で習った程度の人(私もそうです)はあまり意識しない方がいいんじゃないかと思います。あくまで、私がその先入観で見るような鑑賞はあまりおもしろくないんじゃないかと思っているだけの話ですが。

そういうこともあり、私はアンチモラルな感想も持ち合わせていることを否定できません。
何かって言えば、大多数のエイリアンのことです。
ヨハネスブルグの上空に約30年も宇宙船が止まっている中、そこにいたエイリアン達は地上に移され、差別され、「第9地区」と呼ばれる場所に隔離されています。しかしながら、見ている限りほとんどが無法者(ちょっと極端かな?)です。乱暴だったり、マナーが無くて汚らしかったり。ストレートに見れば「バカ」で、隔離されるのもやむなしと思えるのです。
この映画では、主に序盤、終盤ですが、ドキュメンタリー映像のような演出がされています。その中で専門家の分析として描いたものが挟まれるんですが、その説明によれば、彼らはエイリアンの中でも下層で、働きアリとか働きバチのようなものとされています。
「だからって差別は良くない!」みたいなことを私は言えません。現実的に考えたら隔離されるのもやむなしの集団だと見えました。

ただ、そういう存在に対しても接し方っていうのはあると思うんですね。
しかし、地球人がそれを欠いている、というのがまずこの映画を見ていて辛いところの一つです。
その代表的な立場として出てくるのが、主人公のヴィカスです。
彼はエイリアン達を新たな隔離地区へ移住させる仕事を受け、一応の手続きとして、立ち退きの同意を得るために所属機関の連中と第9地区を回ります。彼は第9地区を回りながら、まるで小悪党のようにちょっとセコくも酷いことをやっていきます。
同意書類にサインを求めて、理解できないエイリアンに書類をはじき飛ばされても、手の形がついたからOKだ、なんてことにしてみたり、エイリアンの卵を見つけると、勝手に栄養伝達のチューブを外して「中絶だ」なんて笑ってみたり等々…。
ときにエイリアンの抵抗にあいながら、ずさんに、野蛮に事を進めていきます。

序盤のドキュメンタリー風の流れの中で、彼自身が自己紹介ビデオを撮る様子や、関係者の証言から彼の人格を見ることができるのですが、彼もある意味「バカ」です。頭が良くは見えなく、いかにも真面目さやいい人さで順調に人生やってきた…という感じのいわば凡人です。
凡人だから、と考えられれば幸せかもしれません。
でも私は凡人でさえ、と思ってしまいました。
彼は妻もあり、今度の仕事は昇進抜擢です。人間社会では上手くいっていたのです。彼の人格を考えても、それは理性的に良くやってきたということなんだと考えます。そんな人間が第9地区では非理性的だったり、理性的な悪と言えるような振る舞いをするのは、やりきれない感じがしました。
極論すれば「いじめ」と同じようなものだと言えるのかもしれなくて、こういうものに「やりきれない」って書くなんて偽善者じみてるかもしれません。しかし、ヴィカスの虐待はとても無邪気で気まぐれに見えて、強くそう感じさせるものがありました。

●人間社会に魂を縛られた「非ヒーロー」

そんなヴィカスですが、とあるエイリアンの小屋をあさって見つけた謎のカプセルを開けたところ、中に入っていた謎の黒い液体を顔に浴びてしまいます。それから嘔吐や黒い鼻血等、彼の体に異変が起き始め、ついには入院。第9地区を回る最中負傷し、包帯をして吊っていた腕があらわにされると、そこはエイリアン化していたのです。

アメコミなんかでよくありそうな非人間への変化ですが、この映画の見所は、そんな変化をした主人公がヒーローにならないところです。

まずエイリアン化したヴィカスを待っていたのは、過酷な人体実験でした。人体への直接的な刺激を入れるものが多く、かなり痛々しいシーンが続きます。痛いの怖い人は見ない方がいいでしょう…。かくいう私もドラマの手術シーンでさえ苦手、というタイプなのでツラくてツラくて…。

変化は見た目に止まらず、エイリアンのDNAにのみ反応するエイリアン用武器を扱えることがわかり、利権欲優先のお偉いさんは彼の研究材料としての経済価値を値踏みしたり。
彼に入れ込むようなマッドサイエンティストなんかもいない代わりに、そんなお偉いさんを筆頭に周囲は現実的です。ここも非ヒーローもの的と言えます。合理的ですが、人間社会の恐ろしいところでもありますね。

ヴィカスは自らの体が切り刻まれようという手術の寸前で逃走し、追っ手を避けて結局は第9地区に逃げ込みます。その過程で、携帯電話に妻からの電話を受けるのですが、その妻の言葉もヴィカスを突き放すものでした。
世間ではヴィカスはエイリアンとセックスをして感染した危険人物とされており、ヴィカスの所属していた組織、MNUのお偉いさんである父からもヴィカスのことは諦めるよう言われていたためでした。
結局は何度か通話をするうちに和解し、その妻への思いと、とある聡明なエイリアン…クリストファー・ジョンソンの示唆により、体を元に戻すことに情熱を傾けることになります。
クリトファー・ジョンソンによれば、そのためにはエイリアンの母船に戻らなければならず、それにはヴィカスが浴びた黒い液体が入っていたカプセルが必要ということでした。カプセルはヴィカスがMNUに提出しており、彼らはエイリアンの武器を使いながら、それを奪還しにMNUに乗り込みます。

……なーんて簡単にまとめるとヴィカスにヒーロー性の萌芽があるように見えますが、実際はそんなことは全くなし!ヴィカスの行動や言動は至って場当たり的だからです。
MNUに乗り込むなんてムリだ、無茶だ、と言っておきながら、カプセルがなければ腕を治せないと言われれば一転してどうにかなると言ってみたり、乗り込みに際しても人は殺さないといいつつ、結局は何人か殺して正当防衛だと言い放ったり。
このヴィカスの場当たり的な態度は終盤まで続きます。カプセルを回収して第9地区に戻った後、クリストファーの小屋の地下に隠された司令船で母船に戻るという段になっても、追っ手の迫る中クリストファーに元に戻るには3年かかると言われると、激昂してそれまで協力してきたクリストファーを簡単に裏切り、クリストファーの子供と勝手に母船に戻ろうとします。

このヴィカスの場当たりさこそヒーロー性とはほど遠く、情けないものなのですが、そこには妙なくらいヒーローものでは味わえないリアル感があります。
なぜなら、ヴィカスの行動は徹底して自らの利得、つまりいち早く自分の体を元に戻すことに基づいており、そのためにはどんなエゴイスティックな行動も厭わないのです。だからクライマックスでクリストファーを裏切ったりもしてしまうんです。
これもアンモラルな感想と言わざるを得ないのですが、一瞬にして自分が軸足をおいていた人間社会から排斥され、人間ならぬ扱いを受けている…しかも人間がエイリアン化した貴重なサンプルとして捉えられているため、そのまま人間社会に与しても命さえ危ういというエクストリームな状況ですから、元に戻るためには手段を厭わない彼の行動は自然なこととも思えるのです。

同時に、やはりバカだとも思うのです。そこまでするのは状況を受け入れられていないというか、人間社会に魂を縛られているからだとも感じられます。そういう意味では、立ち退き勧告の際の蛮行も、エイリアン化してからの行動も、一貫したものと見ることができます。どちらも人間社会に根ざすゆえのエゴなんです。

このようにヴィカスのエゴイスティックな行動や心情は、愚かしさもあると同時に、断罪しきれない面もあります。ここがキモなゆえに、この映画にはメッセージ性や問題提起があるとは言いづらいです。ていうか私のようなバカには言えません。
しかし、非勧善懲悪とでも言いましょうか、メッセージ性や問題提起という類にあらずとも、感情移入させて心を揺さぶるところが大きいです。
そこがこの映画の後味の悪さも言えますし、おもしろさとも言えます。

●続編は…いらないかなぁ。

終盤は、第9地区にてMNU軍とナイジェリア人ギャングがヴィカスを狙い入り乱れる中、激しいミリタリーアクションが展開されます。クリストファーはMNUに捕らえられ、ヴィカスとクリトファーの子供が乗った司令船は浮上するも、MNUの攻撃により機関部をやられて墜落してしまいます。
ヴィカスはそのエイリアンの力を狙うナイジェリア人ギャングにより窮地に陥りますが、それを知ってか知らずか、クリトファーの子供が司令船で操作を行うと、ナイジェリア人ギャングがかつてエイリアンから買い取っていた戦闘ロボット(ちなみに人間よりよりいくらか大きい程度)が起動、ヴィカスは難を逃れると共に、それに乗り込んでギャングを蹴散らし、MNUに抵抗しはじめます。
どういう心境の変化か、彼はクリストファーを護衛し、司令船へ行くよう促します。その半ばでロボットは致命傷を受け、結局司令船にはクリストファーのみが戻り、彼の操作により母船が起動、クリストファーが必ず助けに来ると言う中、司令船は母船からの光に吸い込まれていきました。
たたみかけるようにドキュメンタリー映像のような演出も再び随所に挿入され、それがヴィカスやクリストファーのその後を推測として語り、それらしい謎が撒かれて物語を終わらせます。

そこで語られることはもちろんですが、その他にもこの物語には謎が多くあります。
エイリアンはなぜ地球に来たのか、ていうかそもそも地球が目的だったのか…。人間にはエイリアン化を促し、司令船には動力となる、あの黒い液体は何だったのか。ヴィカスはどうなったのか…等々、語り始めれば尽きないのですが、その多くの謎はいわゆる「説明不足」には感じられませんでした。

むしろ想像力をかきたててくれて、SFとしてもおもしろさがあるのですが、その答えを得るにはこれを見ただけでは寄る辺がないのも事実です。
そういう事情や、クリストファーの約束があるゆえ、続編への期待感を煽るような存在と言えます。

しかし、個人的には謎が解けるような続編は望みません。
本作における謎は、謎が謎であるゆえの魅力を持っていると思いますし、その解決は重要じゃないと思うからです。
例えば、エイリアンが地球に来た目的が明らかになったら……よっぽど上手いことにしてくれない限り、陳腐に思えちゃうんじゃないかと思うんです。何もかもありえる、そんな開けっぴろげなところに夢を感じるんです。
この映画自体もメッセージ性がはっきりしたものではないですけど、それと同じように…。

謎を明らかにすることによって、今作同様かそれ以上に感情を動かしてくれるものが出てくるんだったら、それは歓迎しますけど。
しかし、そのあたりがどうなろうとも、本作はきっと長きにわたって色あせない名作と言えるんだろうな、と思います。少なくとも自分の中では…。
とてもいい映画だったと思います。

1 Comment

  • 『第9地区』お薦め映画…

    独創的なストーリーと、リアリティのある映像。ワクワクする展開でアクションシーンも見ごたえあり。風刺は利いているが笑いに嫌みがないスマートな社会派SFドラマ。…

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